難民を助ける会への公開書簡: 「出入国管理及び難民認定法改正案と難民を助ける会の立場について」(2023年5月18日)について

難民を助ける会への公開書簡:

出入国管理及び難民認定法改正案と難民を助ける会の立場について」(2023518日)について  

 

 

難民を助ける会 会長 長 有紀枝・理事長 堀江 良彰 様  

 

1996年の地雷廃絶運動以来、折にふれて貴会の活動を微力ながら支援してきた者として、今般の入管法改正問題における貴会の対応に深刻な危惧を抱き、ここに公開書簡を発します。 

 

 

出入国管理及び難民認定法改正案と難民を助ける会の立場について」(以下、「立場」という。)には、

 

【今回の審議について、難民を助ける会として意見を述べることは差し控えさせていただきます。それは、私たちがこの重大な問題に無関心であるからではなく、「難民支援」活動には関与しているものの、「難民認定」作業には一切関与しておらず、誠に恥ずかしながら、責任をもって発言するだけの専門的知見を有していないからに他なりません。】 

 

【当会の柳瀬は111名おられる難民審査参与員の一人です。
ただし、参与員としての柳瀬の活動は当会とは一切関係なく、柳瀬が個人の資格で行っているものです。】 

 

とあります。

 

 

◎柳瀬氏と会の関係、専門的知見の有無について:

 

◯柳瀬氏と会の関係:

柳瀬氏は、

・前身である会の設立当初から理事長に在職。

・貴会では200008年6月まで理事長、09年7月~216月まで会長の職にあり、現在も名誉会長に在職中。

です。 

 

これを、柳瀬発言(2021421日、衆議院法務委員会) 

 

【参与員制度が始まったのは2005年からですので、私は既に17年間、参与員の任にあります。】 

 

と照らし合わせると、柳瀬氏の参与員としての全期間は、同氏が貴会の理事長、会長、名誉会長であった期間と完全に重なっています。 

 

 

専門的知見の有無:

・通算43年にわたる難民支援の活動歴

・創設以来、60を超える国や地域、国内で、難民等へ支援してきており、なかんずく、ミャンマーアフガニスタン、トルコ、シリア、スーダンなどの難民の大量発生国で豊富な活動歴を有すること。 

 

 

◎定款について:

定款第41号によれば、貴会は【人権の擁護又は平和の推進を図る活動】をおこなうものとされています。

また、第5条では、次に掲げる 

 

(1)人権の擁護又は平和の推進を図るための情報収集ならびに啓発活動 

(2)難民・避難民や被災者等の問題や支援活動に関する情報・資料の収集、調査研究 

(3)難民・避難民や被災者等への緊急援助および復旧・復興支援活動 

(4)難民・避難民や被災者等の就職、就学の促進活動 

(6)難民・避難民や被災者等の問題、救援活動等に関する提言、出版物の発行及び講習、報告会の開催 

 

等の事業を行うこととされています。 

 

 

2021年度決算報告:

2021年度の貴会への外務省日本 NGO 連携無償資金協力は、27千万円であり、これは貴会の当期収入の14%にあたります。 

 

 

これらの点を総合的に勘案すれば、国は、まさに難民に対する豊富な知見を有する貴会を代表する者として、制度創設以来、柳瀬氏に参与員を委嘱しているのではないでしょうか? 

さらに言えば、国から多額の補助金の交付を受けている以上、政府・入管側の判断を是認せざるを得ない立場だろうとの期待もそこには含まれていると想像できます。  

 

【「難民」とは、難民条約第1条又は難民の地位に関する議定書第1条の規定により定義される難民を意味し、それは、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由として迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができないか又はそれを望まない者とされています。

難民認定手続とは、外国人がこの難民の地位に該当するかどうかを審査し決定する手続です。】(出入国在留管理庁ホームページ「難民認定制度」より。) 

 

であるなら、上記のような難民に関する豊富な知見があれば、「難民認定」に関する知見をも有していると考えるのが当然であり、自らそれを否定するのは、自らの仕事に対する矜持を欠いた、場当たり的な詭弁としか思えません。

国外では「難民を助ける会」、国内では「難民を送還する会」で、本当にいいのでしょうか?

このような無責任な「立場」の表明が、貴会が活動している世界各国の人々や海外のNGOの知るところとなった場合に、貴会の今後の活動への信頼を大きく傷つけることになるのを深く憂慮します。 

 

 

◯結論:

貴会の設立趣意書によれば、 

 

1979 年、カンボジアから新たに大量の難民がタイに逃れて来たとき、(略)「日本人は冷たい」との批判を受けたが、(略)われわれは 1979 11 24 日、逸早く難民救援のための市民団体「インドシナ難民 を助ける会」を組織し、(略)難民問題の世界的規模への拡大と(略)救いを求め援助を必要とする すべての難民に対して、(略)愛の手を差し伸べようとして「難民を助ける会」を設立する。】 

 

とあります。

愛の手を差し伸べ ようとするのは、国外にいる難民のみに限られず、「救いを求め援助を必要とするすべての難民に対して」です。 

 

 

また、貴会のホームページによれば、創設者の故・相馬雪香さんは、インドシナ難民の受け入れを政府に働き掛ける一方、民間の力で問題解決に取り組もうと、197911月に貴会の前身である「インドシナ難民を助ける会」を創設されたとあります。 

相馬さんは、インドシナ難民の受け入れを政府に働き掛けたのです。

貴会創設時の「困ったときはお互いさま」という言葉は、難民への思いを表したものであって、間違っても政府・入管とのギブアンドテイクの関係を表したものなどではなかったはずです。 

 

定款第56号には、貴会は「難民・避難民や被災者等の問題、救援活動等に関する提言」を行うと定められています。 

 

ミシェル・フーコーによれば、パレーシアとは「すべてを語る」ということであり、パレーシアを行う者はパレーシアステースと呼ばれます。

だれかがパレーシアを行使していると言われるのは、その人がリスクを引き受け、危険を冒して真理を語る場合に限られます。 

 

現下の状況において、貴会が本当に為すべきなのは、補助金の削減を恐れて政府・入管の言いなりになることでも、降りかかる火の粉を怖れて傍観を決めこむことでもなく、補助金が削減される危険を冒してでも、43年間にわたる難民支援活動で培った知見と栄誉ある「難民を助ける会」の名にかけて、難民のために政府・入管に対してパレーシアを行うことなのではないでしょうか? 

 

              

 

特定非営利活動法人 難民を助ける会 定款(抄) 

 

( )   

3 この法人は特定の政治、信条、宗教、思想に偏することなく、紛争、災害等に起因する難民・避難民や被災者への緊急支援、および地域の復旧・復興、防災・減災と、障がい者等の経済的・ 社会的自立のための開発支援その他の活動を国内外で行い、こうした活動の実施を通じ、人類 の共存・共栄の理念を普及し、わが国の国際的地位の向上に資することを目的とする。 

 

(特定非営利活動の種類)   

4 この法人は、前条の目的を達成するため、次の種類の特定非営利活動をおこなう。 

(1)人権の擁護又は平和の推進を図る活動 

(以下略) 

 

(事業の種類)

5 この法人は、第 3 条の目的を達成するため、特定非営利活動に係る事業として次の事業を行う。 

(1)人権の擁護又は平和の推進を図るための情報収集ならびに啓発活動 

(2)難民・避難民や被災者等の問題や支援活動に関する情報・資料の収集、調査研究 

(3)難民・避難民や被災者等への緊急援助および復旧・復興支援活動 

(4)難民・避難民や被災者等の就職、就学の促進活動 

(5) (略) 

(6)難民・避難民や被災者等の問題、救援活動等に関する提言、出版物の発行及び講習、報告会の開催