山村淳平『入管解体新書』

この国の入管・収容体制の非情さ、その非人間性に怒りを禁じ得ない。/

 

◯収容所での死亡者数(1993年〜2022年):26人/

死因:病死(脳血管疾患や心筋梗塞など)16人、自殺8人、暴行死2人/

国籍:イラン3、フィリピン3ベトナム3、中国2、インド2、ナイジェリア2、ガーナ2など。/

なぜか、アジア・アフリカ国籍の人がほとんどである。その根底には、アジア・アフリカ出身者への抜きがたい差別と蔑視が存在しているのではないか?/

 

◯原因、治療体制:

収容者が症状を訴えても、職員は最初から詐病と断じ、病状が悪化しても外部の

医療機関へ繋げていない、急変しても(死亡しても)気づかない、救命救急措置が不十分で救急車を呼ぶのがおそい、入管医師の診療内容が不十分など。/

 

◯もみ消される国家の犯罪:

【こうしてみると、法務省入管・警察・検察・裁判所は、四重の罪をおかしている。

第一の罪は、スラジュさんの件では、日本人と結婚しているにもかかわらず、在留資格をあたえず、外国人収容所に2回も長期間収容したことである。ウィシュマさんの件では、DV被害にあっていたにもかかわらず、保護をおこたり、収容したことである。

第二の罪は、彼/彼女らを死にいたらしめたことである。

第三の罪は、死亡事件がおきても、ながいあいだ事実をかくしとおしていたことである。

第四の罪は、加害があきらかなのに、検察が入管職員を起訴していなかったことである。】(第3章 無言の人びと)/

 

 

◯入管職員の意識:

【わたしたちの仕事は、不法外国人を収容し、送還することです。 

収容所内で暴力がはびこっても、収容者が自殺しても、難民申請者の強制送還がおきても、入管職員は、罪の意識をかんじていない。病状がわるくなった収容者を医療につなげなくても、彼らは平気でいられる。強制送還後の難民迫害について、想像すらしないだろう。なにより優先するのは、(略)「収容し、送還すること」である。その仕事は、国家と法律で保障されている。 

この点に、じつはおおきな問題がひそんでいる。法律の枠ぐみで異民族への非人間的な行為が正当化され、国家の命令で忠実に仕事をこなす職員が「おだやかな人たち」であっても、冷酷な性格へと変質し、野蛮な行動へとかりたてられるからである。ナチスユダヤ強制収容所伸晃おぞましい出来事は、まさにこれであった。】(第7章 外国人収容所とはなにか)/

 

この国の暴力は、弱者のみに対して特別権力関係の下で、密やかに執行される。

凡庸な悪ーーアイヒマンの子らは、戦後の永い年月を生き延びたのだ。

だが、大村、牛久、名古屋、東京のアイヒマンたちにも、唯唯諾諾と違法な職務命令に従ったことが裁かれる日が必ずや訪れるだろう。/

 

入管の収容施設の実態について読んでいると、フランツ・カフカ流刑地にて」の処刑機械のイメージが脳裏に浮かんでくる。

ただ一つ異なっているのは、入管・収容システムの方がいくらか緩慢な過程であるということだけだ。/

 

 

◯蛇足:入管法改正案について:

【注(三)日本でも、おなじ現象がみられる。入管収容問題をとおして、政府とつながりのふかい移民・難民の支援団体(略)の行動にはっきりとあらわれている。政府からの資金獲得のため、入管収容問題をさけるのである。そうした態度では、日本政府の補完団体として利用される運命となろう。】(第6章 となりの国では)/

 

《入管庁は、「送還忌避者」への対応を強化し、3回目以降の難民申請者の送還を可能にしようとしている。何度も難民申請をするのは「乱用」ではなく、適正な認定実務がなされていないからだ。

国際機関から勧告を受けているように、収容の際に裁判所が関与する「司法審査」や収容期間の上限を設定することが必要だ。これらを導入せずに、入管が送還できる権限だけを強める改正案を出してくるのは本末転倒だろう。》(「全国難弁護団連絡会議」代表の渡辺彰悟弁護士。2023413日、朝日新聞デジタル「難民は少ないのか、認定基準が高すぎるのか 入管法、割れる賛否」)